Sweet Rain

日々のあれこれ、たまに詩

奥野克巳「ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと」の感想を少し

この本の帯に「世界の見え方が180度変わる」とあるが、確かに高度資本主義社会に過適応して暮らしている私たちにとっては、思いも及ばない世界が展開されているのだった。

この本はボルネオに暮らすプナン族の奥野克巳によるレポートなのだが、現在の世界に原始共産制のような社会が存在していることが、まず奇跡なのだ。

狩猟採集民のプナンには、私的所有という概念が存在しない。当然、私たちとは自我のありようも違う。近代的自我を形成してしまった私たちは、私有財産を当然のものとして資本主義社会に暮らしていて、個と個の関係は、それぞれの権利がぶつかりあうため、常に緊張しているように思う。ところがプナンの社会では個と個の葛藤がないようなのだ。この事実が私たちの依拠している規範をはげしく揺さぶるのだ。

プナンの存在の仕方は、どちらかというと動物に近いのかもしれない。通常、動物は絶望しない。だから、プナンには鬱も自殺も存在しないのだろう。

息苦しくてしょうがないこの高度資本主義の社会をどうにかしたいと思うのなら、プナンの社会を参照することも良いことかもしれない。プナンはある意味、とても自由な民なのだ。個々の欲望に忠実だといってもいい。それは実現はほとんど不可能だけれども、私のちいさな願いでもあるのである。