Ⅰ
風が
風を飲み
虹がこわれた
焼けつくような雨が降り
星が砕けた
長い長い葬列のあと
臆病なうさぎは走りさり
砂ぼこりの中で
あるいは
むし暑い森の中で
わたしたちはなにもせずに
たたずんでいた
ぬかるんだ道を歩いて
さまざまな別れをくりかえした
ひまわりは北を向き
世界はどこまでも不機嫌だった
Ⅱ
川ぞいの喫茶店には
肺を病んだマスターがいて
暗いジャズをかけていた
やわらかなぬくもりを捜して
親をなくした子犬のように
わたしたちはさまよっていた
(本当は行きたい場所などどこにもなかったんだ)
冷たい雨にうたれて
飲みなれない酒を飲み
ときおり道路に倒れこんで
死んだふりをした
(本当に行きたい場所などどこにもなかったんだ)
赤ちょうちんにてらされて
ちいさな肉塊が
ぽつんとひとつ
放りだされていた
◆高校の時、「イースト・コースト」というジャズ喫茶に入りびたっていた。行先の見えないなかで、ジャズの海に潜りこむことが心地よかった。卒業して、「イースト・コースト」が閉店したと風の噂に聞いた。ひとつの時代が確実に終わろうとしていた。