どこにもない場所に行きたかったのに
着いたのは零下三十度の
凍りついた街だった
夏は暑く
名寄川で魚を釣り
塩焼きにして
冷たいビールを流しこんだ
炉ばたという居酒屋には
実直なマスターと美しいママがいて
すべて四十年も前の話だ
毎日のように酒を飲み
草の臭いのする孤独をかんだ
もう四十年も前の話だ
むこうがわに渡った人もいて
私の声は届かない
◆最初に赴任したのが名寄だった。十二月の初めに駅に降りると、とてつもない寒さ
に襲われ、驚愕した。それから四年と数か月、寒暖差七十度ちかくある田舎の町で、
酒ばかり飲んで暮らしていた。