Sweet Rain

日々のあれこれ、たまに詩

MEMORIES 5 (奥尻 1985) 

奥尻に着いた日は まだ風もおだやかで 島はわたしたちを あたたかくむかえてくれたようだった 人気のない 夏の終わりの海岸を巡り 夜は民宿村田で 新鮮ないか刺しと うにでだしをとったぜいたくな浜鍋を 満喫した 翌日 台風襲来 フェリーは欠航し 車の中では…

ドゥームズデイ -失なわれたもののために

1 遠くでなにかがはじまった きみたちの歌っている姿を見ると どうして涙が出るのだろう 次々とわたしたちの仲間は死んでゆき 残されたのはおいぼれた犬だけになった そして その犬もいなくなって 2 なつかしい記憶も わたしを救ってはくれない 遠くに見える…

幽霊のように

1 自然のままに生きてゆきたい 声を失い 言葉を失い やがて 全てのものを 失った かすかな思い出の切れはしをたどり ようやく ひとつの幻に たどりつく 失ったものはとうとい だが本当にとうといものは 何だったのか たどりついた幻の場所で すこしだけあた…

再び歩き出すために

1 きみがいなくなって 何年がたったろう その間の私といえば 心がやせ細り 酒ばかり飲んでいた ようやく雪がとけ 何度目かの春がきても 私の心はからっぽのままだ 2 きみはいまどこにいるのだろう やさしい春の陽ざしを求めて どこかの街を 歩いているのだ…

MEMORIES 4  (札幌 1970)

Ⅰ 風が 風を飲み 虹がこわれた 焼けつくような雨が降り 星が砕けた 長い長い葬列のあと 臆病なうさぎは走りさり 砂ぼこりの中で あるいは むし暑い森の中で わたしたちはなにもせずに たたずんでいた ぬかるんだ道を歩いて さまざまな別れをくりかえした ひ…

MEMORIES 3 (名寄 1977)

どこにもない場所に行きたかったのに 着いたのは零下三十度の 凍りついた街だった 夏は暑く 名寄川で魚を釣り 塩焼きにして 冷たいビールを流しこんだ 炉ばたという居酒屋には 実直なマスターと美しいママがいて すべて四十年も前の話だ 毎日のように酒を飲…

MEMORIES 2 (台湾十份 2012)

十份の駅で 願いを書いた赤い天燈が 空にあがってゆく 万券連取などという くだらないことも書いてしまったけど 心の空白にひそむ 旅への思いが通じたのか 台湾は雨の降る季節なのに 今日はよい天気だ 昨日は辛い火鍋を食べ 台湾ビールを飲んだ 酒場の喧噪の…

MEMORIES 1 (函館 1985)

ー男は 猫の皿にミルクをそそぎ 今日いちにちのことだけを考えていた 諏訪優「田端日記二」 希望荘ですごす静かな時間 (だれが名付けたのか 希望なんてどこにもないのに) さよならと向きあう日々 凍りついた海に かなりあを放す (歌は本当に忘れたのか) 耳の…