奥尻に着いた日は
まだ風もおだやかで
島はわたしたちを
あたたかくむかえてくれたようだった
人気のない
夏の終わりの海岸を巡り
夜は民宿村田で
新鮮ないか刺しと
うにでだしをとったぜいたくな浜鍋を
満喫した
翌日 台風襲来
フェリーは欠航し
車の中では
中村あゆみが何度も
みんな翔べないエンジェル
と歌っていた
その日は港近くの安いホテルにとまり
運転してくれたM君と
人生 こんなこともあるよね と
ぬるい日本酒を酌みかわした
翌朝は嘘のように晴れわたり
フェリーは定刻に出港した
耳の奥では
「翼の折れたエンジェル」が
ずっと流れていて
形のさだまらない
水のような思いを抱いて
わたしの三十三才は
このように始まったのだ
🔷8月の末に、奥尻でうまいものを食べようと、ちょうど誕生日の翌日から一泊二
日の予定で島を訪れた。車でなべつる岩などの観光スポットを回り、満足したと
ころで台風直撃。中村あゆみの「翼の折れたエンジェル」はいまだに体に染みつ
いたままだ。